
はじめに
近年、出社回帰・出社促進の流れを受けてオフィスでの食事提供や食事補助サービスの導入を検討する企業からのご相談を受けることが増えています。
2026年4月には所得税の食事補助の非課税限度額が月額3,500円から7,500円まで引き上げられたことも、福利厚生の一つとして注目を集めるきっかけとなりました。
一方、このような食事補助を導入する際に考えなければならないのが社会保険上の取扱いです。所得税で非課税となる範囲であっても、社会保険では報酬として標準報酬月額(保険料の計算の基礎となる額)に算入しなければならない場合があります。
また、同じ食事でも支給方法、たとえばポイントで補助するのか、弁当支給など現物で補助するのかによって扱いも変わります。
今回のコラムでは、食事補助の現物支給について社会保険を中心に労働保険・所得税との扱いの違いも含めて解説します。
そもそも「現物支給」とは?
現物支給の定義は、労働基準法と社会保険で若干異なります。
労働基準法第24条では賃金は通貨で支払わなければならない、とされています(これを通貨払いの原則といいます)。賃金を現物で支払えるのは、法令または労働協約に別段の定めがある場合に限られます。労働協約は労働組合と締結するものですので、労働組合がない会社ではそもそも賃金の一部として食事の支給などを行うことはできません。
一方、社会保険で定義される「報酬」には、金銭だけでなく現物で支給されるものも含まれます(第3条第5項)。労働基準法での現物支給は「賃金の支払い方の制限」の中で言及されるものであるのに比べ、社会保険の現物支給は「保険料の算定にどう含めるか」と論点が異なる扱いとなっています。
福利厚生として報酬に含まれないもの
社会保険の報酬は現物支給を含めて「労働の対償として受けるものすべて」とされます。反対に、会社が恩恵的に支給するものは労働の対償とは認められず原則として報酬に含めません。
たとえば、オフィスにお菓子や飲み物を置いて誰でも自由に利用できる場合、それは労働の対償としてではなく福利厚生として整理できる余地があります。従業員に等しく利用機会があり、業務に直接関係しないこと等が判断ポイントです。
ポイント・カード型の食事補助は報酬になる?
近年増加傾向にあるのが、会社が食事用途に限定したポイントを付与し、従業員が専用カードで飲食店やコンビニの食事代を決済するタイプの食事補助サービスです。従業員が半額以上を負担し、会社負担を月7,500円(税抜)以下に抑えることで、所得税の非課税要件を満たす運用が一般的です。
では、このようなサービスを導入する際、福利厚生として導入し就業規則にも定めなかった場合、そのポイント等は報酬に含めずに済むのでしょうか?
日本年金機構は報酬を「労働の対償として経常的かつ実質的に受けるもので、被保険者の通常の生計に充てられるすべてのもの」としています。毎月継続的に付与され、日々の食費に充てられるポイントはこれに該当すると考えられます。
よって、社会保険ではこうした会社負担分は報酬として算入しておくと、追加徴収のリスクを回避することができます。従業員が手にするのは食事そのものではなくポイントやカード残高といった金額に置き換えられた利益だからです。この場合、原則として後述する食事の現物給与の評価(告示価額の3分の2)は使えず、会社負担額がそのまま報酬の扱いとなります。
参考
日本年金機構『社会保険事務のポイント Vol.5』
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/info/jimupoint.files/Vol.5.pdf
食事の現物給与としての扱いは?
お弁当や社員食堂の食事提供など、会社が食事そのものを提供する場合は社会保険上は「現物給与」として扱います。その価額は厚生労働大臣が告示で都道府県ごとに定めており、2026年4月からの東京都の価額は1人1日あたり300円(昼食のみの場合)です。
参考
日本年金機構『全国現物給与価額一覧表(厚生労働大臣が定める現物給与の価額)』
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150511.html
本人から食事代を徴収している場合の取扱いは次のとおりです。
【食事代を徴収している場合の取扱い】
・徴収額が告示価額の3分の2以上:現物による食事の供与はないものとして、報酬に算入しない
・徴収額が告示価額の3分の2未満:告示価額から徴収額を差し引いた額を報酬に算入する
たとえば、東京都にある会社が従業員に昼食を提供する場合、300円の3分の2である200円以上を本人から徴収していれば、報酬への算入は不要です。会社がお弁当屋さんなど食事提供サービスに払う実際の金額ではなく、告示価額で判定する点に注意しましょう。
なお、健康保険組合に加入している場合は、規約で別段の定めをしている場合があります。
また、残業時の食事については所得税では残業や宿日直の際に支給する食事は非課税とされています(所得税基本通達36-24)。しかし、社会保険にはこのような例外の規定はなく原則として通常の食事と同じ基準で判断します。
ちなみに労働保険では、本人からの徴収額が告示価額の3分の1以下の場合に限り、原則として差額部分を賃金とみなします。社会保険とは基準が異なりますので注意しましょう。
食事ではない「おやつ」「野菜」の扱いは?
では、昼食や夕食ではない間食などの扱いはどうでしょうか?
告示で価額が決められているのは食事と住宅のみで、それ以外の現物給与は「時価」で評価します。
オフィスの冷蔵庫から野菜・果物・惣菜等を購入できる、いわゆる置き型の社食サービスを導入している場合は昼食だけでなく間食にも利用されるケースもあり、商品価格の半額程度を会社が補助する仕組みが多い印象です。
昼食としての惣菜であれば食事として社会保険の3分の2ルールで判定する考え方がある一方で、果物や野菜といった間食まで食事扱いとするのは難しく「食事以外の現物給与」として時価で考えるべきという考え方もあります。この場合は3分の2ルールを適用できず、原則として会社負担額がそのまま報酬となります。
もしこのようなサービスを利用しているうえで利用額が賃金台帳に反映されない運用となっている場合は、個人ごとの会社負担額を会社が把握していないケースもありえます。報酬に算入する場合はもちろん、所得税の非課税限度額を管理するためにも、利用実績の把握は行っておくのが良いでしょう。
税金・社会保険・労働保険上の扱いまとめ
ここまでお伝えしてきた食事補助の形態ごとの取扱いを整理すると次のようになります。
<食事補助の形態別の取扱い>
形態 | 所得税 | 社会保険 | 労働保険 |
|---|---|---|---|
弁当等の食事を直接提供(一部本人負担) | 非課税要件を満たせば非課税 | 本人負担が告示価額の3分の2以上なら算入不要 | 本人負担が告示額の3分の1超なら賃金とみなさない |
置き型社食(野菜・惣菜等) | 同上 | 食事として判定するか時価で評価するか事前確認が必要 | 同上 |
ポイント・カード型 | 非課税要件を満たす運用なら非課税 | 会社負担額を報酬に算入 | 恩恵的給付として対象外となり得る |
所得税の非課税要件は
- 本人が食事の価額の半分以上を負担していること
- 食事の価額から本人負担額を差し引いた額が月7,500円(税抜)以下であること
の2つです。
いずれかを満たさない場合は、会社負担分の全額が給与として課税されます。
参考
国税庁『食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて』
https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026shokuji/index.htm
また、食事補助を報酬に算入する場合には社会保険における随時改定にも留意しましょう。利用額が毎月変動する非固定的な報酬であったとしても新たに支給対象になることは給与体系の変更として固定的賃金の変動にあたり、新設月から3ヶ月の報酬で月変対応の対象になるかを判断することになります。食事補助を廃止する際や利用者が脱退する際も同様に支給実態に応じて随時改定への影響を確認しておきましょう。
おわりに
同じ食事補助制度でも食事そのものを提供するのか、ポイント等を渡すのか、昼食なのか間食なのかによって税金・社会保険・労働保険の扱いはそれぞれ異なります。制度導入の際はそれぞれのルールを把握したうえでどのような形式で提供するのかを慎重に検討するのが安全です。判断に迷う際はサービス提供者だけでなく顧問税理士、顧問社労士、管轄の年金事務所、加入している健康保険組合に相談し対応方針を社内で整理するとバックオフィス内の運用も従業員への説明もより確実なものとなるでしょう。
【執筆者プロフィール】

寺島有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部卒業。新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
HP:https://www.terashima-sr.com/
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最終更新: 2026年10月29日


