人事CREW
← ブログ一覧
人事労務

2026年10月からのハラスメント対策、運用のポイントを社労士が解説

はじめに

2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)と、求職者等に対するセクシュアルハラスメント(以下「求職者セクハラ」)の防止措置が企業に義務付けられます。

各社法改正対応に追われているかと思いますが、その中で実務に落とし込んだ際、たとえば「カスハラをした顧客と連絡が取れなくなってしまったら?」「採用活動をしていない会社も準備が必要?」など、気になる細かな点は多々出てくるでしょう。

今回の記事では運用で発生しうるケースについて、厚生労働省が公表しているQ&Aから6つの論点を取り上げ解説します。

参考
厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001695619.pdf

Q1.【カスハラ】ハラスメントをした顧客が立ち去り連絡先も分からない状態。事実確認はどこまで行う?

顧客に連絡することが不可能な場合、その顧客を追いかけるアクションは必要ありません。

このようなケースでは、会社は従業員等から事実関係を確認したうえで行為者からの聴取は「必要かつ可能な場合」の対応として示しています。すでに立ち去り、連絡先もわからない場合まで、一律に聴取を求めるものではありません。

ただし、これは事実確認そのものが不要という意味ではありません。従業員等から確認し、必要に応じて周囲の他の従業員に話を聞いたり、録音・録画等を確認するなどして事実関係を整理します。

実務では、発生日時や具体的な言動、従業員等から確認できた情報を記録する様式を用意しておくとよいでしょう。「加害相手に事実確認できないので対応できない」と対応を終わらせず、確認可能な情報をもとに対応を進めることが大切です。

Q2.【カスハラ】従業員が1人しかいない店舗でカスハラが発生。誰も代わりに対応できないときは?

その場で交代できない場合に備え、店舗の実情に合った対処方法を定めておく必要があります。

顧客に十分に説明しても不当な要求が繰り返される場合、企業・店舗側は一定時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりするといった対応が厚労省の資料で例示されています。また、暴行・脅迫など犯罪に該当し得る言動は警察へ通報し、現場での対応が困難な場合は本社・本部へ情報を共有して指示を仰ぐことも挙げられています。

店舗マニュアルを作成にあたり、一律に「対応が困難な場合は店長・上長に交代する」とだけ書いてしまうと、1名体制などの小規模な店舗で活用できないおそれがあります。実務では、連絡先だけでなく、対応を終える判断や緊急時の動き方も確認しておきましょう。たとえば、夜間や休日にもつながる連絡先を決め、連絡がつかない場合の次の連絡先まで示しておく方法が考えられます。

また、相談を受けてカスハラの事実が確認できた場合は、1人勤務の店舗でも、担当者の変更やメンタルヘルスの相談対応など、状況に応じた被害者への配慮が必要です。「この人がいないと店舗が回らないから仕方ない」と対応を放置しないよう留意しましょう。むしろ1人で助けを求めることが難しい環境にあるからこそ、より一層気をつける必要があります。

Q3.【求職者セクハラ】内定者へのセクハラは、従業員向けと求職者等向けのどちらの指針で対応する?

判断のポイントは「入社前かどうか」ではなく「採用内定によって労働契約が成立したと認められるかどうか」です。

労働契約の成立が認められる場合は、従業員向けの「セクハラ防止指針」に沿って対応する必要があるとされています。相談等を理由とする解雇その他の不利益な取扱いも禁止されます。たとえば、同じ内定者でも、採用内定によってすでに労働契約が成立したと認められる場合には、従業員向けの「セクハラ防止指針」に沿って対応することになります。一方、労働契約の成立が認められない場合には、「求職者等セクハラ防止指針」に基づく対応を行います。

ただし、内定通知書とその承諾をもって労働契約が成立していたとしても、学生の内定者については求職者等向けの指針も同時に参考にすることが望ましいとされています。入社までの間に内定者向けの説明会や懇親会へ参加するなどが想定されるためです。内定者に対して相談の受け皿に空白が生じないよう、運用上の場合分けを明確にしておくと社内の混乱を防ぎやすくなります。

Q4.【求職者セクハラ】採用面接だけでなくOB・OG訪問や会食も、求職者等へのセクハラ対策の対象になる?

社外の飲食店や懇親の場も、対象になる場合があります。

採用面接の場でなくとも、たとえば飲食店で行うOB・OG訪問といった内容も求職活動等に含まれるとされています。また、懇親会などの会食であっても、実質的に採用活動や実習の延長と考えられる場面は対象に含まれます。

判断に当たっては、従業員等の職務や求職活動との関連、従業員と求職者等との関係、参加者、参加が任意か強制かなどを考慮します。「社外だから」「業務時間外だから」「自由参加だから」という理由だけで対象外としません。また、双方が以前からの知り合いであってもその関係性だけでなかったことにせず、他の事情も併せて総合的判断を行います。

実務では、会社説明会や面接だけでなく、OB・OG訪問や実習後の交流まで含めてルールを作成しましょう。厚労省の資料には、面談の時間・場所、複数人で対応するなどの実施体制、連絡に使うSNSの種類を定める例が示されています。なお、決めたルールは従業員等だけでなく、求職者にも会社の採用ページ等で周知する必要があるので併せて対応しましょう。

Q5.【求職者セクハラ】求職者等の相談窓口は人事担当者が兼ねてもよい?

人事担当者が窓口を兼ねること自体は問題ありません。ただし、相談のしやすさも踏まえて人選しましょう。

ただし、ハラスメントが発生しても求職者が採用への影響を恐れて人事担当者への相談をためらってしまうケースや、人事担当者が加害者であるため相談先がなくなってしまうといったケースが想定されるため、人事担当者以外をハラスメント相談窓口に指定することも検討が必要です。

実務上の選択肢として、例えば労務担当、法務担当など別部門の担当者を窓口に加えたり、外部機関へ相談対応を委託したりする方法があります。いずれの方法にせよ、特定の担当者とのやり取りに困った場合にも別の相談先へつながる体制を検討するとよいでしょう。

また、窓口は設けるだけでなく、実際に対応できることが必要です。担当者向けの対応手順や人事部門との連携方法を整え、会社の採用ページ等に連絡先を示しましょう。たとえば、採用ページだけでなく面接案内のメールや説明会資料にも同じ窓口を記載すれば、求職者等が連絡先を探し直す手間を減らせます。

Q6.【求職者セクハラ】採用活動をストップしている会社も、求職者等へのセクハラ対策は必要?

定期的な採用活動がなく求職者等と従業員が接する機会もない場合は、すべての措置を講じていなくても差し支えないとされています。

ただし、採用活動を開始し、説明会や面接を実施することとなれば、その時点ですべての措置義務を果たす必要があります。「採用人数が少ないから対象外」ということではありません。

また、求人を出していなくても、OB・OG訪問やインターンシップ等で求職者と接する機会がないかは一度社内で確認しましょう。採用予定の有無だけでなく、実際の接点を把握することが大切です。

準備漏れを防ぐ工夫として、採用を始める際の社内チェックに、面談ルール、相談窓口、従業員・求職者等への周知を組み込んでおくことをおすすめします。求人の手配と併せて確認できるようにしておけば、急な欠員補充の際にも対応を進めやすくなります。

おわりに

いかがでしたでしょうか。厚生労働省のQ&Aからも分かるように、今回の法改正対応では、規程や相談窓口を整備するだけでなく、実際にハラスメントが発生した際に、自社の体制や現場の状況に応じて適切に対応できるよう準備しておくことが重要です。規程やマニュアル等の整備と併せて、従業員等や求職者等が安心して相談できる体制を整えていきましょう。


【執筆者プロフィール】

寺島有紀

寺島有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。

一橋大学商学部卒業。新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

HP:https://www.terashima-sr.com/

2023年11月16日に、弊所社労士大川との共著書「意外に知らない?! 最新 働き方のルールブック」(アニモ出版)が発売されました。
意外に知らない?! 最新 働き方のルールブック | 寺島 有紀 編著, 大川 麻美 |本 | 通販 | Amazon


最終更新: 2026年9月30日

現場に穴をあけない
人事労務を、
あなたの会社の標準に。

シフトで働く現場の課題を、人事CREWがどう解決するか。資料で詳しく確認できます。

導入企業 500 社以上平均稼働開始 4 週間ISO/IEC 27001 認証取得