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オフィス出社回帰、トラブルを避ける進め方は?社会保険労務士が解説

はじめに

コロナ禍をきっかけに在宅勤務(リモートワーク)は広く浸透していきましたが、感染症の波が落ち着いたタイミングで出社を原則とする働き方に戻す企業が増えています。

出社回帰に方針変更した際に気になるのは、出社に応じない・応じられない従業員の扱いです。物理的な距離や家庭の事情などで出社が困難な者、あるいはもともと在宅勤務の働き方を望んで入社したのだから出社は対応できないと拒む姿勢を取る者がいる場合、給与や賞与を正当に減らすことは可能なのでしょうか。

結論として、可能となるケースもありますが、実施のタイミングや進め方は慎重である必要があります。今回は、在宅勤務から出社へと制度を変更する際に押さえておきたい点を解説します!

まずは規程を確認しましょう

そもそもの在宅勤務の扱いを確認するため、まずは会社の在宅勤務規程(リモートワーク規程)を確認しましょう。在宅勤務が「会社の許可制であること」「業務上の必要により出社を命じることがあること」が定められている場合、出社回帰はこれまで会社が留保していた出社命令の権限を発動させるだけなので、労働条件の変更にあたりません。一方、求人票の募集要項や労働条件通知書にて在宅勤務を約束していた場合には、在宅勤務が労働契約の一部になっていたとみなすことができ、内容を変更するには本人による同意が必要となります。

ただ、これはあくまで書面上の建付けであり、予め備えておく前提の部分です。長期間フルリモートを許容してきた運用実態があると、契約書や規程の文言だけでは出社を強制するのが難しい場合がある点に注意してください。参考になるのが、令和4年11月16日の東京地方裁判所の判決(アイ・ディ・エイチ事件)です。

【アイ・ディ・エイチ事件(東京地判令4.11.16)】

就業場所を「本社事務所」とした契約で採用されたデザイナーの原告は、入社後一度出社したのみでその後はほぼ一貫して在宅勤務を続けていました。在籍中、原告が代表者を揶揄する内容を社内チャットで流したことを受け会社は原告に懲戒処分および出社命令を下しましたが、原告は応じなかったためその期間を欠勤扱いとし、結果退職となりました。原告からは、違法な出社命令等により労務を提供することができなかったとして、民法536条2項に基づき出社命令から自主退職までの期間の賃金が請求されました。裁判では契約書の記載よりも実態を重視し、就業場所は原則自宅とされ、会社は業務上の必要性がある場合に限り出社を求めるものと判断し、会社は賃金の支払を余儀なくされました。

このような判断が下された背景として、会社代表者が①デザイナーは自宅で勤務をしても問題ない、②リモートワークが基本であるが、何かあった時には出社できることが条件である旨供述していること、③実際に原告がほぼ出社しておらず、会社もそれに異論を述べていないといった実態があったことから、本件労働契約においては、契約書の記載にかかわらず、就業場所は原則として原告の自宅とし、会社は、業務上の必要性がある場合に限って、本社事務所への出勤を求めることができると解するのが相当であるとしました。

この事案で押さえておくべき重要なポイントは、雇用契約時に勤務地が「本社事務所」と記載されていたにも関わらず、実態によっては「在宅勤務の特約が成立していた」と判断されその有効性が覆されたという点です。出社命令が業務上の必要性を欠き無効とされるならば、その命令違反を根拠とした減給や懲戒も無効となります。

会社は出社回帰に方針転換するにあたり、出社の業務上の必要性を具体的に説明できる状態に論理整理することが必須といえるでしょう。

出社を求める対象者の範囲は?

出社回帰が全社での方向転換であっても、個別事情により配慮が必要な従業員への措置は欠かすことができません。

たとえば、2025年4月の育児・介護休業法の改正により3歳未満の子を養育する労働者や要介護状態の対象家族を介護する労働者はテレワークを選択できるよう措置を講じることが会社の努力義務とされました。また、2025年10月の育児・介護休業法の改正により柔軟な働き方を実現するための措置等において3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対し、月10日以上のテレワークを含む5つの選択肢から措置を講じることが義務付けられています。もし自社の選択肢の一つとしてテレワークを導入している場合は、該当の従業員から請求があればテレワークを認める必要が出てくる点にも留意が必要でしょう。

※参考 厚生労働省『育児・介護休業法改正ポイントのご案内』
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001259367.pdf

また、障害者雇用促進法により、2016年から障がいのある労働者への合理的配慮が義務化されています。

※参考 厚生労働省『雇用の分野における障害者への差別禁止・合理的配慮の提供義務』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shougaisha_h25/index.html

これらに該当する従業員をはじめ個別の配慮を要する者に対しては、全社方針にとらわれず柔軟な働き方の措置を講ずる必要があります。

生活を整えるための猶予と配慮を尽くすこと

出社回帰は多くの従業員にとって実質的に不利益を伴う変更です。規程や労働契約の上では出社命令が留保されていたという形であったとしても、生活への影響が大きいことには変わりありません。急な変更となれば戸惑いや反発の感情を抱かれるのも自然な流れです。

そこで、変更の前に、社員が出社できる状態へ生活を整えるための猶予と配慮を尽くしましょう。たとえば家事・育児・介護など事情で通勤時間を捻出できない従業員が、出社を前提とした生活に切り替えるには相応の時間がかかります。おおよそ1年程度は制度変更までの猶予期間を設けるのが現実的です。例えば、いきなりフル出社とするのではなく、まずは週2日出社、週4日出社等の段階を経てフル出社に移行していく等も効果的ですし、加えて、遠方在住の社員には転居費用の補助や物件内覧・引っ越しのための特別休暇の付与など、物理的な移動に伴う負担の補助を検討しましょう。

このように段階的な措置をとることで、従業員にとっても生活や気持ちを整える、あるいは次の道を模索する余裕が生まれ、トラブルへの発展を抑えることができます。

人事評価項目で工夫する方法も

評価の仕組みを見直すのも一つの選択肢です。その際は評価基準を「勤務地」や「出社頻度」に置くのではなく「行動と成果」に置くよう留意しましょう。

たとえば、部署やプロジェクトの枠を超えた協働、ノウハウの共有といった対面での接点があるほうが発揮しやすいパフォーマンスを評価項目に加え、結果としての出社を促すといった発想です。協働やナレッジ共有からイノベーションが生まれるという考え方や、これを評価項目に据えることは問題ありません。

ただし、このような項目が実質的に「出社しなければただちに減給」という性質のものとなると話が変わってきます。特に入社直後から長期間フルリモートを許容されてきた遠方居住者にとって、達成手段が乏しい項目で評価された結果、降格や賞与カットが行われるとなると、人事権の濫用とみなされるリスクがあります。

そこで、オンライン勉強会の開催、ナレッジドキュメントの整備や共有など出社せずとも取り組める手段や機会を広く用意した上で、評価が「場所」でなく「行動と成果」に裏付けされた結果であるよう心がけましょう。

おわりに

出社回帰は従業員にとって生活が大きく変わる制度変更であり、多かれ少なかれストレスを与えます。会社としては従業員が変更を受け入れて出社できるよう、制度変更のスケジュールには余裕をもたせ、まずは猶予と配慮を尽くす姿勢を十分にとった上で慎重に進めていきましょう。

こうした手順を踏まえてもなお正当な理由なく出社に応じない従業員がいる場合には、将来的に減給等といった処遇へ反映する余地もあります。ただ、それは業務上の必要性のある出社命令であることを前提に段階的な指導を重ねた末の最終手段であることに留意しましょう。


【執筆者プロフィール】

寺島有紀

寺島有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。

一橋大学商学部卒業。新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

HP:https://www.terashima-sr.com/

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最終更新: 2026年7月30日

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