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多拠点のサービス業のためのカスハラ対策実務ガイド ― 10月1日に「現場を守れる形」で間に合わせる

この記事で持ち帰れること

2026年10月1日、改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント対策がすべての事業主の義務になります。中小企業の猶予はありません(政府広報オンライン、確認日 2026-09-27)。

ただ、「義務化されたので方針を作りました」で終わる会社と、実際に現場の従業員が守られる会社は別物です。とくに数十〜数百の店舗・拠点を束ねる会社では、方針を1枚作るだけでは足りません。「その方針を、全店舗で、同じ水準で、同時に回す」という設計が要ります。

この記事は、その設計図です。措置義務が実際に求めていることを整理したうえで、それを本部が方針とテンプレートを持ち、現場が相談と一次対応をできる体制へ、多拠点特有の論点(店舗間のばらつき、エリアマネージャーの一次対応、記録の一元化)に沿って落とし込みます。一般的なカスハラ解説ではなく、「多店舗でどう回すか」に絞ります。

措置義務が本当に求めている4つのこと

厚生労働省は2026年2月26日に指針を告示しました(令和8年厚生労働省告示第51号)。企業が講ずべき措置は、大きく次の柱で整理できます(BUSINESS LAWYERS/SmartHR Mag.、確認日 2026-09-27)。

  • 方針の明確化と周知 ― 「カスハラは許さない、従業員を守る」という事業主の方針を定め、従業員と顧客の双方に周知する。就業規則・服務規律への明記を含む。
  • 相談体制の整備 ― 相談窓口を設け、周知する。担当者が適切に対応できるようにする。
  • 事後対応 ― 迅速・正確な事実確認、被害者への配慮(配置転換・メンタルヘルス支援など)、再発防止。
  • 悪質事案への対処 ― 特に悪質な行為への対応方針をあらかじめ決めておく(警察通報・法務連携の基準など)。

これに加え、相談者のプライバシー保護と、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止が求められます。

見落とされがちですが、同じ2026年10月1日に、求職者等に対するセクシュアルハラスメント(いわゆる就活セクハラ)の防止措置も義務化されます(SmartHR Mag./政府広報、確認日 2026-09-27)。採用面接を店長やエリアマネージャーが担う多店舗企業では、これは本部が別建てで手当てすべき論点です。カスハラだけを見て、面接現場を見落とさないでください。

なお、措置義務違反そのものに直接の刑事罰はありません。しかし、行政の勧告に従わなければ企業名が公表され、報告徴収に応じない・虚偽報告をした場合は20万円以下の過料の対象になります(SmartHR Mag./BUSINESS LAWYERS、確認日 2026-09-27)。多店舗ブランドにとって、店名・社名の公表が採用と客足に及ぼす影響は、過料の額よりはるかに重い。ここが実効性の正体です。

なぜ多拠点だと「方針1枚」で終われないのか

現場は待っています。UAゼンセンの2024年調査では、直近2年で迷惑行為の被害にあった人は46.8%。2人に1人に近い水準です(JILPT、確認日 2026-09-27)。被害の中身は暴言39.8%、威嚇・脅迫14.7%、繰り返しクレーム13.8%、長時間拘束11.1%。接客の現場で、いま起きていることです。

同時に、この数字には希望もあります。被害率は2017年の流通部門で約7割、2020年に56.7%、そして2024年に46.8%へと下がってきました(UAゼンセン各回、確認日 2026-09-27)。対策は効く、というのが読み取れる事実です。一方で、勤務先で「対策なし」と答えた人はいまだ42.2%(JILPT、確認日 2026-09-27)。効くとわかっているのに、半数近くが手つかず。この差を、義務化を機に埋めるのが本部の仕事です。

多拠点で難しいのは、次の3点に集約されます。

  • 店舗間のばらつき ― 方針を通達しても、A店は毅然と対応し、B店は「お客様なので我慢」で通してしまう。判断が店長個人の性格に依存する。
  • 一次対応の担い手が薄い ― 深夜・ワンオペ・繁忙時間帯に、その場で誰が線引きをするのか。学生・外国人・高齢のパートが最前線に立つ店舗ほど、後ろ盾が必要です。
  • 記録が残らない・集まらない ― 各店で口頭処理され、本部に上がってこない。同じ悪質客が複数店を回っていても気づけない。事後対応も再発防止も、記録がなければ成立しません。

措置義務は「会社」に課されます。店長個人の頑張りではなく、これは本部の設計問題です。

本部が持つもの/現場が持つもの ― 役割分担の設計

多拠点で回す鍵は、「何を本部が一元的に持ち、何を店舗に委ねるか」を先に決めることです。目安は次のとおりです。

| 領域 | 本部(人事・労務)が持つ | 現場(店長・エリアマネージャー)が持つ |

|---|---|---|

| 方針 | 全社共通の方針文・就業規則条項を作成し、全店に一斉展開 | 店内掲示・朝礼での周知、スタッフへの説明 |

| 判断基準 | 「どこからがカスハラか」の線引き基準・対応フローをテンプレ化 | テンプレに沿ってその場で一次判断 |

| 一次対応 | 判断に迷う事案のエスカレーション先を明示 | エリアマネージャーが店長を後方支援し、通報基準で警察・本部へ |

| 相談窓口 | 全社共通の相談窓口(本部一元)を設置・周知 | 現場から窓口へつなぐ導線を確保 |

| 記録 | 報告フォーマットを統一し、記録を一元管理・分析 | 発生時に定型フォーマットで即時報告 |

| 悪質事案 | 法務・顧問との連携、対応方針の事前策定 | あらかじめ決めた基準で通報・退店要請 |

この分業の要点は、判断を店長個人に丸投げしないことです。線引き基準と対応フローを本部がテンプレ化して配れば、A店とB店の差は縮みます。カスハラ対策のばらつきは、多くの場合「基準がない」ことから生まれます。

現場で回すための3つの実務

1. エリアマネージャーを一次対応の後方支援に位置づける

その場で毅然と対応するには、店長が「独断ではない」という確信を持てることが要ります。指針も「一人で対応させない」ことを重視しています。エリアマネージャーを、複数店舗をまたぐ一次対応の後方支援者として明文化してください。具体的には、(1)店長が判断に迷ったときの即時相談先、(2)通報・退店要請の最終ゴーサイン、(3)被害を受けた従業員のケアと必要なら翌日以降のシフト調整。これを担当店舗の範囲で回せるようにします。

2. 報告フォーマットを全店同一にして、記録を本部で一元化する

いつ・どの店で・何が起き・どう対応したかを、同じ様式で残します。様式が店ごとに違うと集計できず、再発防止も安全配慮義務の証跡も作れません。統一フォーマットで本部に集めれば、「同一人物が複数店で繰り返している」「特定の時間帯・業態に集中している」といったパターンが見えます。ここが、単店では得られない多拠点ならではの強みです。相談者のプライバシー保護は、アクセス権限を本部の担当者に限ることで担保します。

3. 相談窓口は本部に一元化し、全店から同じ導線でつなぐ

窓口を店舗ごとに置くと、担当者の力量差がそのまま従業員保護の差になります。窓口は本部に一本化し、全店から同じ番号・同じフォームでつながる導線を用意するのが、多拠点では現実的です。相談したことによる不利益取扱いの禁止も、本部が明文で保証します。

10月1日までに本部が動かす順番

残り時間で優先度をつけるなら、次の順です。

  1. 方針文と就業規則条項を確定し、全店へ一斉展開する(周知の証跡を残す)。
  2. 線引き基準・対応フロー・報告フォーマットをテンプレ化して配布する(ここが多拠点の肝)。
  3. 相談窓口を本部に設置し、全店へ周知する。
  4. エリアマネージャーの一次対応の役割を明文化し、通報基準を共有する。
  5. 就活セクハラの防止措置を、採用面接を担う店長・エリアマネージャー向けに別建てで用意する。

完璧な運用を10月1日に間に合わせる必要はありません。まず「方針・テンプレ・窓口・記録」の骨格を全店同一で立ち上げ、その後に精度を上げる。全店で同じ土台に立っていること自体が、措置義務への最初の答えになります。


より詳しい「多拠点向けカスハラ対策チェックリスト/方針テンプレート」(就業規則条項の文例、統一報告フォーマット、エリアマネージャー向け一次対応フローを含む)は、人事CREW の資料ダウンロードからご覧いただけます。自社の店舗数・業態に合わせてお使いください。


最終更新: 2026年9月27日

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